『言葉ははかない』がうまれるまで 27

 

恥ずかしいんだけどさ、俺ネット書店で自分の本を予約しちゃったんだよ。一昨年出版した写真集「もうひとつのスーダン」の時も、同じように予約してしまったんだけどさ。今回は我慢しようと思ってたんだけどな。

創ってる間に何百回も何千回も見ているでしょ。完成した本をもらっても、客観的に見ることができないんだよね。だけど、自分でお金を払って、商品として 配送されてくるのはなんか違う。不器用だけどさ、そういうちょっと儀式みたいな手順を踏むことで、やっと第三者的な立場で本を見ることができるんだよね。 俺の手作り本をメンバーに渡すんじゃなくてさ、日本中に流通できる商品として完成したって感慨があったね。

届いた本を改めて見て、装丁が美しいなあと思った。白が美しくてうっとりするよね。サインしてる間も、みんなが大切そうに写真集をテーブルに置いてくれ るたびに「綺麗だな。よかったな、この表紙デザインにして」と思った。保護のビニールを外して、まずは特典のフォトカードを探したよね。「どこにあん だ?」って。

ツアーが始まると、もうそれだけにどっぷり浸かる生活なんだよね。機材と着替えだけ持ってライヴ現場に行って撮影して、みんなでメシ食って、ホテルに 帰って寝て起きて、写真を仕上げて、またライヴに行って撮影して、みんなでメシ食って、酒飲んで寝て起きて、写真を仕上げて、そんな繰り返しなんだよな。 ツアーがないときでも4ヶ月に一度Spitzbergenの撮影があって、夏のイベントだのなんだのかんだのと言ってたら、結局スピッツの連中と会ってな い時なんてない気がするよね。

毎日をただ必死で生きてると振り返ったりしないから、そんなに月日が経っているなんて考えたこともなかったね。気がついたら俺も50歳を過ぎてるし、メンバーも40歳を過ぎてたんだけどね。

そうやって彼らと日々を過ごしてきて、写真を撮りつづけてきた。写真集の中に収まっているのは、スピッツのメンバーなんだけどさ、それだけじゃないんだ よな。俺が愛してやまない世界中のロックシーンが散りばめられている。数々の楽器の質感は1950年代からのもの、シンバルやスティックや弦やギターのラ インの美しさ、光や四季の美しさ・・・その中にもまた、大切な音楽と肉体と心と想いと数々の歴史の美があるんだよね。

写真集で表現できたのは、スピッツのほんの一部でしかない。今回GOスカを体感してさ、そのことをつくづく思い知らされたよ。癒し系のバンドなんて風に 彼らを表現する風潮もあるけどさ、いやいや一歩中に入ると幅があって奥が深い。ロックでパンクでヘヴィでオルタネイティヴで。こんなに複雑な表現をよくも あれだけポップに仕上げて、ひねってひねって1回転半して着地するみたいなさ。スピッツは本当に偉大なバンドだよね。

終わってしまえば、ああすればよかった、こうすればよかったと思うけど、2年前に創りたいと思い浮かべたものは、ほぼ完成した。色とか構成とか、もうす べてが、2012年3月20日時点の俺にとっての最高傑作と言い切れる。そして、それはこれからもずっとつづいてゆく限り、どんどん上書き更新されてゆくんだよ。

 

 

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