『言葉ははかない』がうまれるまで 22

☆デザインが仕上がって、次は印刷という段階に入りましたね。ゴールは後もう少しというところですが、ここからが大変でしたね。

写真集を制作するにはさまざまな工程がある。写真撮影から始まって、写真のセレクト、デザインとレイアウト、装丁や紙や本の体裁を決めたりさ。デザインが完成したら、それを紙に印刷する工程に入るんだ。

本当に大切なことは、紙の上にどれだけ写真を再現できるかってことなんだよな。インクが紙に染みこんで、それが画像として表現される。デザインデータ が、紙に載ったときにどういう色で再現されるのかを色校正で確認するんだけどね、そこで思うとおりの色が出てなければ「やり直し!」ってことになるんだ。 だけど今回の場合は、3月20日に間に合わせるためにギリギリでやってるからさ、そんなに大幅なやり直しが出来るスケジュールではなかったんだよね。

色校正を見たとたん「なんだこれ!」と思った。コヤマさんのデザインの段階では完璧だったんだよ。なのにデータの色と全然違う、元の写真の色とも全然違う、出力見本とも全然違う。全体にイエローが覆い被さっていて、くすんだ古くさい写真になってたんだ。

数日後、二稿目を確認したときには、ほぼ何も直っていなかった。だけどもうやり直す時間がなくてさ、なんとなく「これで大丈夫ですよね。時間もないですし」という空気が流れていた。

「全部やり直しですよね。こんなもの出版できない。内藤さん、妥協なしって言いましたよね」
春名ディレクターがそう言い切った。もちろん俺も、まったく同じ気持ちだった。俺にとってこの写真集は、スピッツや支えてきてくれた人への恩返しのつもりなのに。俺が納得できてないものを世に出せるわけがない。

時間との戦いの中でも、妥協することは選ばなかった。それからが、もうひとつの格闘だったね。出版社に何度も足を運んで、出てくる色を確認した。だけど まったく色が違う。データをそのまま印刷するという、こんな簡単なことがなぜ出来ないのか。その理由が誰もわからないと言うんだ。そんなことがあるわけが ないと、それぞれの担当と掛け合った。

絵や音もちょっとしたことで、まったく違う物になってしまう。写真でもそうだよ。少しでも黄色みが被ることで古臭くなる。これは感覚だから、わからないこともあるかもしれないけど。

特徴的なのは、マサムネくんコラージュの青の表現。ブルージーなちょっと濁ったブルー。そこにたどり着きたかった。浅い青空でもなく、鮮やかでもなく、 コクのあるブルーを出したかった。それなのに、その青が紫で出てくるんだよ。まったくもって論外。俺はブルーの中のブルーを表現したいのに、違う色では語 れないよ。

「ブルースってわかります? その青なんです」とかさ、プリンティングディレクター佐藤さんと真剣に検討していった。もうこうなったら、想いを一から伝え るところからだよね。佐藤さんも現場で技術の方たちとやりとりをしてくれて、やっと思ったような色が出るようになってきた。そういう作業を、主婦の友社に 通って結局、異例の色校正を5回くらいやった。

それが終わったのが3月8日。もう本当のギリギリのギリギリで、最後の試みは出力確認することが出来なかった。だけどもう、やれることはすべてやった。あとは技術の方々に任せて、俺に出来るのは待つことだけだった。

出来上がった写真集を手に取れるのは3月20日「Spitzbergen tour 2012 GO!GO!スカンジナビアvol.5」初日の会場。

もうね、それまでの時間は、いろんなことを考えたね。俺の手を離れてからのことは祈るしかなかった。思うような色が出ていなければ、どんなことになったとしても販売しない。「しょうがない」って言葉は使わないと決めていた。

それは仕事に対する誇りの問題なんだ。今回もたくさんの問題があった。でもそれを1つ1つ解決して、進めてゆくんだよね。目指すところはいつだって同じ で、自分が納得できる作品を創るだけなんだよ。それには、あきらめずに放り出さずに現場に立ち続けることが大事。妥協のない作品を産み出すためには、最後 の責任は自分自身で取らなければならない。

横浜の楽屋で重い写真集を手にとって、ページを開いたら、思った通りの色が表現されていた。俺は自分の中でGOを出した。これまでの想いがやっと届いたって感じがした。最後に踏ん張ってくれた大日本印刷の皆さんに感謝だよ。

でも、その時はまだ実感がなかったね。なんとか間に合ったということと、これからツアーが始まって、直接みんなに届けることが出来るんだなということを感じたかな。ネットで少しずつ感想が寄せられはじめて、こういう感想を聞かせてくれた人がいるんだ。

『写真集なので、てかてかした写真ばっかりかと思っていたら、びっくり、結構加工っぽくしてある。それが、半端なく、かっこいい!古臭くなくて、普遍、な感じが、スピッツー!』

そう言ってくれる方たちの言葉を見て「あ、報われたな。伝わったな」と思ったんだ。

 

 

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